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ジョブ型かメンバーシップ型か?というナンセンスな問いかけ

2020.10.16

こちらのブログはHRBPの設置や、各種人事施策の強化を通じて戦略人事を実現されたいという方のために「戦略人事の考え方」や「HRBPは作ってみたが何をすればいいのか?」といったお悩み、疑問・質問にお答えしていくものです。

カゴメ株式会社CHRO有沢正人様との講演で感じた大事なポイントとは 先日、戦略人事・CHROの世界で著名なカゴメ株式会社のCHROでいらっしゃる有沢様と弊社代表の土井が日本CHO協会が主催する講演に登壇させて頂きました。
募集開始からわずかな時間で満員になってしまったことから、戦略人事やHRBPというテーマについて皆さんの関心の高さを伺えます。
ご披露頂いた有沢様の戦略的なお取り組み、当日ご参加頂いた方々との質疑を踏まえて、弊社の土井が感じたことをまとめたコラム(記事はこちら)を公開させて頂きました。
大事なポイントは

① 戦略人事・HRBPに興味はあるが、『HRBPの役割を考えるためのフレームワークがない』
② カゴメの有沢様の取り組みはまさに『アラインメント』である

の2点になります。

今年の春に弊社の提携先である米国AlignOrg Solutions社の組織デザインに関する知見をまとめた『最強の戦略人事』を東洋経済から出版させて頂きましたが、その書籍での最も重要なメッセージが、②にある『アラインメント』(整合性をとること)になります。

少し話はそれますが、書籍を出版して以来、巷ではコロナ禍の影響もあり、戦略人事への転換や『ジョブ型』の話題が非常に注目されてきており、弊社にもお問い合わせを頂くようになりました。
しかし、お話を伺ってみると、『当社はこれまでメンバーシップ型であったが、ジョブ型に移行するにはどうしたら良いのか?』や、『ジョブ型に移行するにはジョブ・ディスクリプション(JD:職務記述書)が必要となるが、どの程度のものを作れば良いのか?』など、言葉を選ばずに申し上げると、「思いっきり論点のずれた残念な『人事屋視点』のお問い合わせ」を頂くこともあります。

そこで、今回のブログでは『ジョブ型かメンバーシップ型か?というナンセンスな問いかけ』をテーマに少しだけ議論を掘り下げみたいと思います。

(筆者は事業会社にて人事実務、多数の人事関連プロジェクトの経験があり、上記のような『ジョブ型かメンバーシップ型か?』という問いを持つこと自体が時間の無駄と考えています。今現在、このブログをお読みいただいている方々には、是非、この『ジョブ型かメンバーシップ型か?』という問いへの答えに時間を使うのではなく、自社の社員の為、会社の業績向上のため、そして戦略人事としての皆様お一人お一人の今後のキャリア構築のために時間を使っていただければと思います。万が一、『いや、実はうちの人事部長がジョブ型がいいのかメンバーシップ型がいいのか調査しろ!と言ってきたので・・・』という場合は遠慮なく、ご連絡ください。まずはその愚痴からお聞きします。)

『ジョブ型かメンバーシップ型』という問いは、そもそもナンセンス 少し話はそれますが、皆さんが自宅の購入を検討しており、不動産屋からはマンションと一軒家の両方を勧められたとします。
皆さんにとってマンションと一軒家、どちらが良い物件でしょうか?
(話を単純化するため、ここでは近隣の教育・買い物施設等の条件は省略して、あくまでマンションおよび一軒家そのものについて検討して頂くことにします)

図面を見る限り、マンションは角部屋で部屋数もあり、広さも十分そうです。
一軒家の方もウッドデッキまであったりして、在宅勤務に使ったり、週末にゆっくり読書をしたりするスペースとして使えそうですね。
しかし、言うまでもなく、このマンションないしは一軒家が『良いかどうか』は皆さんの置かれている状態によりますね。
お子さん一人と夫婦二人の合計三人であれば、マンションの間取りも広さも問題なさそうです。しかし、皆さんのご家庭にお子さんが3人いる場合はどうでしょうか?明らかに部屋数は不足します。
またご両親と同居するにはどうでしょうか?父親・母親のいずれか一方だけがいるとしても、生活導線や部屋割り等、良いか悪いかの判断は変わってくると思います。
(ちなみに「泥棒の視点」で見て頂く場合には『侵入経路』がまずは問題になるので、これまただいぶ異なる判断基準になると思います。)

言うまでもありませんが、マンションをジョブ型、一軒家をメンバーシップ型に置き換えて考えて頂いても状況は同じです。どちらが良いか悪いかを決めるのは制度そのものではなく、置かれている状況、もう少しいうと、事業の目的や事業の戦略によって決まります。

世界の優良企業はジョブ型雇用なのか?事例から読み解く それでは世界の優良企業(ここでは利益を上げ続けている企業)がジョブ型なのか、メンバーシップ型なのかを見てみたいと思います。
日本ではあまりなじみがないかもしれませんが、ビジネススクールでケースメソッドを通じて学んだことがある方には鉄板の企業事例とも言える航空会社がサウスウェスト航空です。
「空飛ぶバス」を目指して、地方空港をつなぐという差異化の戦略を持つユニークな会社であり、何かあればすぐに赤字に転落する航空業界において、ほぼ唯一、創業以来、利益を上げ続けている会社です。
航空会社ですので、当然ながらパイロットや整備士という『ジョブ』があります。そして、サウスウェスト航空が利益を上げるための戦略は『短いターンタイム』です。ターンタイムとは機体の稼働率のような指標で、要するに着陸してから次の離陸までの時間を指し、これが短ければ機体の稼働率が高く利益が創出されることになります。この戦略を実現するために、同社では持つべき組織能力を規定し、その組織能力を実現するための主たる活動を規定しているのですが(詳しくはマイケル・ポーターの研究にあります)、ここでユニークなのは、このターンタイムを短くするためにパイロットが給油したり、フライトアテンダントが期待から荷物を運び出したりするという業務を行うことです。高い安全性が求められる航空業界にあってジョブが規定されるのは当然ですが、実際に従業員の業務・活動を動かしているのは同社の戦略とマネジメントです。また同社の企業文化は明らかにメンバーシップ型であり、家族的な雰囲気があることでも有名です。
その他、ハイエンドな統計ソフトウェアの会社であるSASインスティテュートの事例もあります。統計ソフトの会社というと極めて専門性の高い人財が集まっていて(実際そうですが)、いかにもジョブ型の雰囲気がしますが、同社は早くから従業員に対する手厚い福利厚生で有名であり、家族もつれてこれるオフィス、そのオフィスにある素晴らしいカフェテリアなどは幾度も話題になったことがあります。
その他、ジョブ型を採用していても実態が家族的、メンバーシップ型という会社はいくらでもありそうです。つまりジョブ型にしたからといって何かが解決するのではなく、それは選択肢の一つに過ぎないということが言えるかと思います。

ジョブ型雇用で評価の基準となる職務記述書はどう作成すべきか? ジョブ型vsメンバーシップ型という対立構造があまり意味をなさないことのイメージは掴んで頂けたかと思います。(実際には、高騰する人件費の抑制がジョブ型ブームの背景にあったりしますが、ここでは書ききれないので敢えて割愛しています)
とはいえ、ジョブ型が意味がないということを申し上げるつもりもないので、現実的に直面する課題として職務記述書について触れておこうと思います。
職務記述書の項目や細かさについてお問い合わせを頂くことも多くなりましたが、弊社で提供しているアラインメントコンサルティングの手法を使えば、ほぼ解決に至ることができます。
アラインメントコンサルティングの概要についてはHRカンファレンスの資料(ダウンロードはこちら)をご覧頂ければと思いますが、大きな流れとしては戦略の明確化→マクロデザイン(提供価値の明確化、組織能力の策定および組織能力を発揮するための活動の策定)→ミクロデザイン(活動を実行に移すための組織の6要素のデザイン)になり、全てがつながっているのですが、職務記述書に関係するのはミクロデザインになります。話をシンプルにするためにマネージャーの職務記述書について考えることにしましょう。

ここでは顧客に価値を提供するための業務プロセスを描き出すことからスタートします。通常はカスタマージャーニーを発展させたValue Point Mapというものを使いますが、ここでは皆さんが普段みたことのあるプロセスマップ等をイメージして頂ければ結構です。
このプロセスマップがあると、〇〇というステップから××というステップまでは一人のマネージャーが見れるが、そこから先は別のマネージャーが見たほうが効率が良い、といった議論が可能になり、職務範囲を決めることができます。(外資系企業のJDではRoles & Responsibilityを見るとだいたいわかりますね)
業務プロセスが見える化されていて、マネジメントの範囲が決まると、どのような組織構造をとるべきか、権限や意思決定の範囲も決めることができます。(Side-B。ここでSpan Of Controlの決め方等の議論をしなくてはいけないのですが、今回は紙面の都合で割愛しています)
組織構造が決まると、その組織と業務を運営するための情報の流れや、業務のパフォーマンスの測定指標を決めることができます。(Side-C)
このSide-Cまで決めることができれば、

明確な戦略:自社は何を目指して、どう戦おうとしているのか
マクロデザイン:顧客にどのような価値を提供しようとしているのか、そのために持つべき組織能力と主たる活動は何であり、この職務記述書に示される職務は、戦略や組織能力の何に貢献できる職務になるのか?
実際の職務範囲はどこからどこまでか(Side-A)
その職務を遂行する組織はどのような形なのか(何人の部下がいるのか)(Side-B)
どのようにパフォーマンスを測定すれば良いのか(Side-C)

が職務記述書に記載できます。

しかしながら、VUCAの時代では日々、環境が変化します。当然ながら職務内容も変化させるべきで、予め誰がどのようなタイミングで職務記述書の変更・更新を行うのか、そのガバナンスを決めておくことが重要ですが、ラインマネージャーに権限を渡し、HRBPが確認・承認する形態が一般的かと思います。
ここまで書いても「この職務記述書で正しいかどうか」が不安になることもあるかと思います。そんなときは一人で悩まずに、既にいる現場のマネージャーのところに職務記述書を持っていって「この職務記述書の中身で日々のマネジメント業務がスムーズに行えるかどうか、発揮すべきリーダーシップはどのように書いておけば良いか(Side-F)」を相談しに行ってしまうのが良いともいます。
このステップを入れることで、現場のマネージャーの「職務記述書を押し付けられた感」を相当程度、軽減することが可能です。心あるマネージャーであれば、「一人一人の成果を評価するために職務の明確化は必要だが(ジョブ型の実現)、目標を達成するためにはチームワークが重要であり、期待される行動としてのチームワークも職務記述書に明記しておきたい」ということを言ってくれるでしょう。(実際、「職務記述書の書き方」について悩んでいる方は現場とのコミュニケーションが薄い方であることが数多くあります)
このように、アラインメントの手法を使うとスムーズかつ現場を巻き込んで納得感のある職務記述書を創ることが可能です。

ただし、それでもジョブ型によって「これまでの組織文化が失われるのでは?」とお考えになる方もいらっしゃるかもしれません。次回はこのジョブ型の議論と絡めて、組織文化について触れてみたいと思います。


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